業務でSEOコンサルティングを行っていると、webメディアの方向性や「マネタイズをどうするか」といったご相談を受けることも多くあります。
従来であれば、webメディアにおいては基本的には「PV (ページビュー)」が指標となることがほとんど。
「PVを多く集めることができれば、お金を稼ぐことができる」という図式が成り立っていました。
しかし、ブランディングなく「PVのみ」に依存する収益化は危険であり(Googleのコアアルゴリズムアップデートに振り回されたりする)、
そもそもネットワーク広告からの収益は相当なPV数を集めることができなければ、十分な収益を得ることができません。
今回「2020年代、オウンドメディアのマネタイズ戦略」ウェビナーでは、webメディア業界の重鎮の方々からのリアルな声で、 多くのヒントを教えていただきました。
画像転載元: 「2020年代、オウンドメディアのマネタイズ戦略」イベントページ
以下、ウェビナーの中から「マネタイズ」に関わる部分のみを書き起こし、メモ方式で内容をご共有します。
特に次のような方には役に立つ記事となっているはずです。
- ネットワーク広告以外での具体的なマネタイズ方法を知りたい、競合と差別化したい
- webメディアを運営していくうえで、何をKPIにするべきか悩んでいる
- PVを追いかけ、ネットワーク広告から利益を上げるマネタイズ方法に限界を感じている
ウェビナーは座談会形式で行われ、3名の方々によってお話しされました。
米村 智水(わいがちゃんよねや)さん
出版社で書籍編集や、IT企業にてWebディレクター/コミュニティマネージャーなどに従事し、2011年にKAI-YOU,LLC.として法人化。ポップポータルメディア『KAI-YOU.net』をリリース。
柏井 万作(かしわい まんさく)さん
2006年に取締役として株式会社CINRA立ち上げに参加。創業時から現在までカルチャーWEBメディア『CINRA.NET』の編集長・責任者としてサイトの運営を行う。
じきるうさん
株式会社GIGにて、編集者兼マーケターとしてクライアント企業のコンテンツ支援や採用支援を行うほか、オウンドメディア『Workship MAGAZINE』の編集長を務める。
当日ウェビナーでは主に進行をご担当。
(上記はイベントページ: スピーカー紹介を参考。経歴は一部省略させていただきました。)
目次
2020年現在、どのようにオウンドメディアのマネタイズをしているのか?4つの方法
マネタイズ方法①: 会員登録制による、サブスクリプションモデル
米村さんによると、KAI-YOU.netは会員登録制による、サブスクリプションモデルが主な収益原となっているとのこと。
(画像は kai-you.net TOPページから画面キャプチャして引用)
サブスクリプション収入のほうが、広告収入の2倍ほど大きい収益が発生している状態。
PVを稼ぐより効率がよく、何より売上が安定しているとのことでした。
KAI-YOU.net は、会員登録の維持および登録のメリットとして、下記の内容を実施しているようです。
- 会員限定でプレゼントが届く
- 毎週、コミュニティイベント
- 会員によるコミュニティ発信
など。
マネタイズ方法②: 自社オウンドメディア内にて、企業タイアップ型オウンドメディア(サブメディア)を複数展開
CINRA.NETでは自社オウンドメディア内に、入れ子構造で企業タイアップのオウンドメディア(サブメディア)を複数展開 。
タイアップ先企業の内容を発信する独自のメディアとして特集。
オウンドメディア内に、サブメディアのエリアを設置して発信されています。
(画像キャプチャ: https://www.cinra.net/ より。2020/09/25)
「間貸し」にも近いと感じましたが、記事は自社オウンドメディアの方が制作されています。
母体となるオウンドメディア本来の読者視点も損なうことなく、上手く複数のメディアが融合される形に。
これは他社様との信頼関係をきちんと構築してきた、CINRA.net様ならではの方法かもしれません。
マネタイズ方法③: タイアップ記事で利益のベースを確保
CINRA.netは上記、サブメディア単位で企業タイアップをしていることに加えて
記事単位でのタイアップ記事も請け負っています。
このタイアップ記事の依頼がコンスタンスにあることが、CINRA.netの盤石な売上基盤につながっているとのこと。
マネタイズ方法④: 企業タイアップ「企画」で、webメディアの外でもマネタイズする
同上のCINRA.NETは、webメディアにとどまらない「ブランドコラボレーション」の動きを行っています。
たとえば、以下のプロジェクトをクライアント企業と共に行いました。
- ブルックリン・ブルワリー社とアーティストをサポートするプロジェクト
- オンラインでアーティストを発掘するオーディション
- オンラインフェス(DJ events)
このように、メディア事業としてのみマネタイズするのではなく、メディアという領域に囚われずにクライアントと一緒になってプロジェクトを企画・提案すること。
そうして生まれるマネタイズ方法もある、と柏井さんは語ります。
2020年代オウンドメディア、マネタイズのための「KPI設定」
次は、オウンドメディアのKPI設定について。
2020年のオウンドメディア運営におけるKPI設定には、今までと異なる変化があるのでしょうか。
「PVをKPIに設置するのはやめた」
CINRA.netでは、「PVをKPIに設置するのは4年ほど前にやめた 」とのこと。
アドネットワークをもともと使用していなかったこと、そしてタイアップ記事で利益のベースができていたことから、
PVを追いかけるメリットをあまり感じなくなったとの事でした。
KAI-YOU.netでも、「PVはあまり追わなくなってきた」と米村さんは語ります。
「オウンドメディアがPVを追うメリットは、そもそもネットワーク広告くらいしかしかないんですよね。あとはライターのモチベーションに繋がる、という点はありますが、それくらい。」
(米村さん)
KAI-YOU.netでは売り上げの大半を会員登録のサブスクリプション形式で上げており、PVを追いかけるメリットを感じなくなってきたとのこと。
現在ではネットワーク広告をまだ表示させてはいますが、今後ネットワーク広告の廃止を予定されているとのことです。(※)
(※ 2020/09/28 17:50修正: 「近年、ネットワーク広告を設置することも廃止したとのことでした。」→ 「今後廃止する予定」に訂正しました。じきるう様、ご指摘ありがとうございました。)
PVを追いかけても、利益は上がらない。
「PVがいくら伸びたところで、ネットワーク広告だと限界があるんです。
数千〜1億PVを叩き出せるのなら話は別ですが、web「メディア」の領域ではそれは不可能。
その方法はweb「サービス」が領分とするところではないでしょうか。webメディアとしては、ブランディングに注力したほうが利益に繋がると思っています。」
(米村さん)
ただし、1〜2人程度の少人数で運営しているのならネットワーク広告は「あり」だと語られていました。
月100万〜200万円の利益を上げることは可能だからです。
しかし、10名程度を超えるようなメディア企業の場合、ネットワーク広告のみの利幅だけではやっていけないとのこと。
ブランド構築に寄与する指標として「滞在時間」も重視していくべき
PVのみに囚われると、メディアとしての個性が失われてしまう
両社に共通していたポイントとして、「PVを追いかけるよりも、ブランディング・ファンづくりに注力すべき」だという意見がありました。
「PVをKPIに設置してしまうと、メディアとして似たりよったりなものになりがち。
そうなると特色が出せず、『どこで読んだのか?』が気にされない、覚えてもらえないメディアになってしまう」
(柏井さん)
PVだけでなく、「滞在時間」を重視。読者に価値が届いているかチェック
それでは、PVを指標としないなら、何をKPIとして設置すれば良いのでしょうか。
CINRA.netでは、数年前から独自の指標「EXPT」を設置し、追いかけるようになったと柏井さんは語ります。
「EXPTとは、『総合滞在時間』のこと。
その記事をどれくらいの時間をかけて読んでもらえたか?という指標にしています。」
(柏井さん)
EXPTは恐らく、Entire X◯◯ Page Timeの略称でしょうか…(Xは推測できず)
同社はEXPTを、「届けられた感動の指標」として意味づけしているとのこと。
低PVの記事でもいいから、滞在時間を5分にしよう。とのように、滞在時間を重視するようになったとのことです。
PVを減らして滞在時間を増やしたら、売上が3倍になった
そしてその取り組みは、実際に売上へも大きなインパクトを与えることに。
「PVが7割減っても良いので、EXPTを1.3倍に増やそう」 と数年前に声をあげたんです。すると、売上が約3倍ほどになってきました。」
(柏井さん)
「PVを追いかけることが、必ずしも売上・利益に繋がることではない」というケースの好例ですね…!
売上が約3倍とはものすごい数字ですが、加えて、PVに依存している訳ではないので安定しているというメリットもあると思います。
2020年代オウンドメディアのマネタイズ方法まとめ。ブランド構築が、安定した利益につながる
いかがでしたでしょうか。
今回出てきた2020年代オウンドメディアのマネタイズ手法として
- 会員制サブスクリプション
- 企業タイアップ記事
- サブメディア(自社オウンドメディア内にタイアップ企業メディアを展開)
- メディアの範囲に留まらない、企業タイアップ「企画・プロジェクト」
の4つが出てきました。
サブメディアや企業タイアップ企画・プロジェクトについてはクライアント企業との信頼関係や理解が必要となるところですが、
会員制サブスクリプションと企業タイアップ記事に関しては、すぐにでも方向性として検討できるものではないでしょうか。
総じて、PV主義のネットワーク広告よりも「ブランディング」、そしてファンを大切にしたマネタイズ手法が長期的にみて利益に繋がりますよ、というお話だったかと思います。
個人的にも、PV主義のネットワーク広告は「薄利多売」なイメージで、メディアとしてのブランドを醸成していけるイメージはありません。
ブランド構築には、たしかに時間はかかります。しかし様々な方向へ展開でき、また安定した収益に繋がっていくはず。
その意味で、ブランディングそしてファンづくりを重視したメディア運営を私もオススメしたいと思います。
ただし、ものすごい努力と工夫、そして苦労をされたようです…!チャレンジする価値は、大いにあると感じます。
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